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第10回:MLB大谷選手と感染性胃腸炎

カキ鍋が美味しい季節ですが、一方でノロウイルスなどによる感染性胃腸炎が流行する時季でもあります。文献1)によると、米国でのノロウイルスの推定患者は年間2,100万人(人口の約10%)にのぼるそうです。昨年、メジャーリーグの大谷選手がウイルスによる感染性胃腸炎(ウイルス性胃腸炎)で途中降板したことがありました。さすがのスーパーマンも感染してしまったのです。
それでは日本の患者数はどうでしょうか?文献1)によれば、米国の患者比率10%をもとに日本の人口に換算すると、年間1,000万人となりますが、日本人はよく手を洗うので、これよりは少ないと考えられています。いずれにしても、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎は患者数の多い感染症です。



感染性胃腸炎とは?

ウイルス、細菌、寄生虫などの病原体による感染によって生じる胃腸炎(発熱、腹痛、嘔吐、下痢など)の総称です。
例年のおおまかな傾向として、ノロウイルスによる流行は年末にピークを迎え、春頃にロタウイルスが流行し、夏場は腸炎ビブリオなどの細菌性のものが流行します。

感染性胃腸炎を起こすウイルスの特徴

ウイルス性胃腸炎は、成人ではノロウイルス、幼児はロタウイルス、アデノウイルスが原因である場合が多いです。いずれのウイルスも「ノンエンベロープウイルス(脂質性の膜に覆われていないウイルス)」であるため、一般的なアルコール消毒剤や熱に抵抗性を示します。また、感染力が強く、多くのウイルスは、低温、低湿度の環境で、より長い期間、感染力を維持します。

ここからは、患者数が多く、冬に頻発するノロウイルスによる感染性胃腸炎の感染経路、予防について、おさらいしておきましょう。

ノロウイルスによる感染性胃腸炎の症状と感染経路

潜伏期間は1~2日で、症状は腹痛、吐き気、嘔吐、下痢、軽度の発熱です。通常、数日で回復しますが、持病のある人や、乳幼児、高齢者などは、脱水症状を起したり、症状が重くなったりするケースもあるので、注意が必要です3)

感染経路は以下の3つです。代表的な事例を示します。

①経口感染

加熱不十分な二枚貝や感染者によって汚染された食品を食べる。

接触感染

ウイルスで汚染された物品(便座、ドアノブなど)を手で触れ、自身の口や鼻を触る。

飛沫空気感染

患者の糞便、嘔吐物が飛散あるいは乾燥し、空気中にウイルスを含む飛沫やウイルスが浮遊し、吸い込む。



ノロウイルスの感染予防

日常の感染予防策としては、「持ち込まない」、「つけない」、「やっつける」、「拡げない」がキーワードです3)

「持ち込まない」

食中毒では、感染者を介して汚染した食品を原因とする事例が近年増加傾向にあります。調理をする人は以下の点に注意しましょう。

  • 日頃から、感染しないように、ていねいな手洗いや健康管理に気を付けましょう。
  • 腹痛や下痢などの症状がある場合は食品を直接取り扱わないようにしましょう。

「つけない」

  • ノロウイルスは手指のしわ、爪の間などに入り込むと、ウイルスのサイズが小さいためなかなか取り除けないですし、ウイルス10~100個程度でも感染します。トイレ後や調理前等では、この点に留意し、石けんと流水による十分な手洗いをしましょう。また、ノンエンベロープウイルスに有効なアルコール製剤も市販されていますので、活用しましょう。
  • 直接食品に触れる際には、使い捨て手袋を活用しましょう。


「やっつける」

  • 食品に付着するノロウイルスを死滅させるには、中心温度で85~90℃・90秒以上の加熱が必要です。
  • 物品(食器、調理器具など)の消毒方法には、熱湯(85℃以上・1分以上)で加熱するか、塩素系消毒剤(材質影響に注意が必要)に浸して消毒します。日常の感染予防として、ノンエンベロープウイルスに効果的なアルコール製剤や環境除菌剤を使用するのも一つです。


「拡げない」

感染者が発生した場合、その感染力は凄まじく、適切に対応しないとヒトからヒトへの感染を3回繰り返す言われています2)。患者が使用した食器、周辺環境、嘔吐物などを、迅速かつ適切に処理しましょう。また、対応に当たっては、患者の糞便中から通常10日程度、ウイルスが排泄され続ける点にも注意が必要です。

ノロウイルスによる感染性胃腸炎の治療

現在、ノロウイルスに有効な薬はありません。通常、脱水症状の改善のため、水分とミネラルの補給が行われます。抵抗力の弱い乳幼児や高齢者は、脱水症状を起しやすいため、嘔吐や下痢が続く場合、早めに医療機関を受診しましょう。なお、下痢止めの薬を使用すると、ウイルスが腸管内に留まり、回復を遅らせることがあるため、医師の指示がある場合を除き、服用しない方が良いでしょう。

おわりに

昔からカキにあたらない人がいると言われてきましたが、近年の研究で、ある種のノロウイルスには、血液型がB型の人は感染しにくいことが明らかになりました。しかし、ノロウイルスには沢山の種類があり、結局、ヒトはいずれかの種類のノロウイルスに感染するのだそうです4)
ちなみに、大谷選手の血液型はB型なので、一部のノロウイルスに感染しにくい体質をもっていることになります。さすがスーパーマン!

主な参考文献:
1)西尾治.施設管理者のためのノロウイルス対策Q&Aブック, 幸書房, 2015.
2)新名史典ら. 最新版 ビジュアル図解 洗浄と殺菌のはなし, 同文舘出版株式会社, 2020.
3)政府広報オンライン ノロウイルスに要注意!感染経路と予防方法は?, 2022年10月21日, https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201811/3.html(参照2022-12-06)
4)Patricia L. Foster(2020)“Your blood type may influence your vulnerability to norovirus, the winter vomiting virus”,THE CONVERSATION, January 10, https://theconversation.com/your-blood-type-may-influence-your-vulnerability-to-norovirus-the-winter-vomiting-virus-129125(参照2022-12-06)

筆者プロフィール

山中 巌

薬剤師、薬学修士。サラヤ株式会社 管理薬剤師

経歴
1981年 大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学)卒業
1983年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程前期修了
製薬会社にて製剤研究などに従事。定年退職後、調剤薬局勤務を経て、現在に至る。