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第11回:手荒れは、衛生的に良くない?

冬といえば、手荒れが気になる季節ですね。手荒れが生じると、手指に不快感を感じたり、美容的にも好ましくありません。また、衛生面でも注意が必要です。
なぜ手荒れは衛生面で注意が必要なのか、手荒れの原因や予防を治療方法とともにご紹介したいと思います。



皮ふの仕組みと手指皮ふの特徴 

人の皮ふはいくつもの組織からなっていますが、我々の目に触れている皮ふ組織は、皮ふの表面にある「角層」で、手荒れの舞台になります。角層は、下図のように最も外側(皮ふ表面)の「皮脂膜」、その内部に「角質(=角質細胞)」の多重の層、及び角質の間を埋める「細胞間脂質」からなっています。
角層は、下表のとおり、これら膜や組織の働きにより、体内の水分蒸発の防止に加えて、細菌などの異物が体内へ侵入することを防ぐなど、重要なバリア機能を発揮しています。
また、手指の皮ふは、顔などの他の部位と比べると皮脂を分泌する腺が少ないため、皮脂膜が薄いです。そのため、手指は手洗いや紙を取り扱うなどの外的刺激を受けると、容易に皮脂膜が失われ、皮ふ水分の蒸発を防ぐバリア機能が低下し、乾燥しやすくなるのです。


図:角層の大まかな構造

表:角層 構成する膜・組織の働き



皮脂膜 汗と脂(あぶら)からなり、まさに天然のクリームです。ラップフィルムよりも薄い膜ですが、皮ふを覆うことによって水分の蒸発を防ぎます。
角質、細胞間脂質 「角質(角質細胞)」はケラチンという硬いたんぱく質と天然保湿成分、「細胞間脂質」はセラミドを含み、皮ふに物理的なバリア機能と水分を保持する働きをもたらしています。

手荒れの原因

一般的に手荒れは、手指の角層の柔軟性や滑らかさがなくなり、乾燥、肥厚、亀裂などを生じた状態をいいます。手荒れの原因は種々考えられますが、医療機関や福祉施設等に従事される方の多くの場合は、高頻度の手洗いや、洗剤・手指消毒剤の使用により、皮脂や角層表面の細胞の天然保湿成分と水分を失い、角層表面がカサカサになります。また、摩擦などの物理的な刺激も相まって、角層表面に亀裂が出来たり、皮ふがめくれ上がって毛羽立つことなどによって、手荒れの症状を引き起こしていると考えられます。特に、冬は空気の乾燥による皮ふからの水分喪失や、寒さによる皮ふの新陳代謝の低下、洗い物などでお湯を使用することによる手指の皮脂消失などにより、これらの状況に陥りやすくなります。

なぜ手荒れはよくないのか?

手荒れは、不快感を感じたり美容的にも問題がありますが、手指衛生の観点でも、以下の問題を生じます。そのため、予防が重要です。

  • 皮脂が失われると、皮ふ表面の角層に隙間ができる、細菌・ウイルスなどの汚れが付着したり、それらが体内へ侵入しやすくなります。
  • 手洗いや手指消毒剤使用時に皮ふ刺激が生じるため、手指衛生の頻度や質が低下します。

手荒れの予防方法

頻回な手洗い、洗剤や手指消毒剤の使用による手荒れに対する予防方法をいくつか挙げます。

① 手荒れを起こしにくい手指衛生剤を使用する。

例:保湿剤配合で、自分にあったアルコール手指消毒剤を使用する。

② 刺激となる手指衛生慣習を減らす。

例:手指消毒前に行う、石けんを用いた手洗いを見直す。手を拭くときは、強く擦らない。洗い物をする際は、ゴム手袋をする。

③ エビデンスのとれたハンドケア剤をこまめに使用する。

ハンドケア剤の中には、保湿と角質バリア機能の補強ができ、かつ作業性を損なわず、手指消毒剤の効果に影響を与えないものもあります。

④ 冬の外出時は、手袋をして皮ふの乾燥を防ぎ、血行を促す。室内の温度、湿度に留意する。

⑤ 日頃の生活習慣として、血行不良を招くストレスの軽減に加えて、栄養のバランス、特にビタミン類を多く含む野菜や果物を積極的に摂取し、皮ふの新陳代謝を促す。



手荒れの治療

治療の基本は、手荒れ要因の回避とともに、以下のような薬剤を使用します。

  • 保湿剤(ワセリン、ヘパリン類似物質、尿素など)で保湿を行い、バリア機能の回復を行います。
  • 炎症が生じている場合、ステロイド外用剤を使用し炎症を抑えます。また、強いかゆみがある場合は、皮ふを掻くことによる炎症の悪化を防ぐため、抗ヒスタミン薬を用います。
  • 皮ふの血行促進、新陳代謝促進のため、ビタミンEの内服薬、ビタミンA配合の塗り薬などを使用することもあります。

軽い手荒れであれば市販の薬で対処できる場合もありますが、症状が強い場合や長引いている場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

おわりに

ところで、女性と男性、どちらが手荒れを起こしやすいのでしょうか?労働者健康安全機構による職業性皮膚障害に関する調査分析によると、女性の方が多いようです。その理由として、水仕事や家事などの環境的な要因が挙げられています。遺伝的な要因はさておき、環境的な要因が手荒れに大いに影響するようですので、男性の皆さんもご注意ください。

主な参考文献:
1)松崎文昭. 「手荒れ.於:日本化粧品技術者会編.化粧品辞典」,丸善,2003.
2)手塚正.「手足の皮膚生理とそのケア」,フレグランスジャーナル,2,11,477,1991.
3)瀧口さだ子.「看護師の手荒れの症状と程度―手荒れ予防ローション設置前後の変化について」,
金沢大学看護研究発表論文集録,39,17,2007.
4)Rocha LA et al.(2009). “Changes in hand microbiota associated with skin damage because of hand hygiene procedures on the health care workers”, Am J Infect Control, 37(2), 155.
5)独立行政法人労働者健康安全機構「労災疾病糖医学研究普及サイト物理的因子疾患:-職業性皮膚障害の
実態・発生機序ならびにその予防に関する研究の追跡調査-」,
https://www.research.johas.go.jp/inshi/15.html, (参照2022-01-10)

筆者プロフィール

山中 巌

薬剤師、薬学修士。サラヤ株式会社 管理薬剤師

経歴
1981年 大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学)卒業
1983年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程前期修了
製薬会社にて製剤研究などに従事。定年退職後、調剤薬局勤務を経て、現在に至る。