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お悩みスッキリコラム

第22回:万博と感染症

「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとする2025年日本国際博覧会(以下、万博)が大阪市の夢洲で始まりました。未来のテクノロジーや海外の文化に触れ、ワクワク感を味わいたいと思っています。
さて、万博協会(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会)は、万博開催中に国内および海外から半年で2,800万人の来場者を想定しており、1日当たり約15万人が来場する計算です。WHO(世界保健機関)は、「特定の場所に特定の目的を持ってある一定期間、人々が集積することで特徴付けられるイベントで、その国のコミュニティーの計画や対応リソースに負担をかける可能性のあるもの」をマスギャザリングと定義し、万博はまさにこの定義に該当するイベントです。マスギャザリングは、さまざまな場所から大勢の人が集まるという特徴を持っていることから、その地域にはない感染症が持ち込まれたり、クラスターを形成するなど感染症が拡散する起点となり得ます。実際過去には、イスラム教徒の大巡礼に関連した髄膜炎菌感染症の流行、スポーツ大会では麻疹(はしか)やインフルエンザ、ノロウイルスのアウトブレイク(通常発生しているレベル以上の感染症の増加)が認められています1)
そこで、今回は万博開催に向けた感染症発生リスクに対する取り組み概要をご紹介します。


まずは、2024年1月に国立感染症研究所が、「2025年日本国際博覧会に向けての感染症リスク評価」を行いました。以下のように、万博の公衆衛生上の特徴をピックアップの上、感染症発生リスクに対して検討されています2)

万博の公衆衛生上の特徴

時・期間
  • 万博の開催時期は4~10月であることから、食中毒や媒介蚊の繁殖、豪雨、台風、猛暑などの影響を受ける時期である。
人流
  • 参加国や参加人数の規模が大きい。海外から約350万人の入場者見込み、その多くは東南アジアやオセアニアからで、1〜2週間滞在する。輸入感染症(海外で感染して国内に持ち込まれる感染症)への注意が必要である。
  • 国内外の来場者、観光客は、公共交通機関で万博会場のみならず、大阪や近畿を中心に移動し、国内のさまざまな地域での宿泊や観光を行う可能性がある。感染症の拡散に注意が必要である。
会場
  • 会場は大型テーマパークのようで、屋内外を問わず特定の場所に人が集まる機会がある。
  • 食品を提供するパビリオンがある。
  • 「静けさの森」や「ウォータープラザ」など、感染症を媒介する昆虫や動物が生息しやすい環境がある。また、会場には冷却塔、給水機、ドライミスト、水しぶきがかかるような演出があり、水由来の感染リスクがある。
会場の医療体制
  • 8か所程度の診療所が設置される。

感染症リスクの検討

感染症の監視や対策に関する体制、感染症発生状況、加えて万博の特徴から考慮すべき感染症、自然災害後に発生する感染症、バイオテロ災害などを考慮して、優先して監視すべき21種の感染症がリストアップされています。その中でも大規模事例の懸念かつ重症度等を考慮すると、まずは麻疹、侵襲性髄膜炎菌感染症、中東呼吸器症候群(MERS)、食品に関連した腸管出血性大腸菌感染症に注意が必要であり、急性呼吸器感染症(新型コロナウイルス感染症、インフルエンザなど)や集団食中毒にも十分注意すべきであるとしています。また、万博に関連した原因不明の重症感染症疑いの発生についても念頭に置く必要があります。
上記の「感染症リスク評価」を踏まえ、行政や万博協会は、感染症対策を進めています3、4)


感染症リスクへの対策

感染症リスクの検討の結果、注意すべき感染症が抽出され、万博会場はもとより大阪をはじめとする近畿、さらには全国各地においても感染症リスクにさらされる可能性があることが分かりました。このことを念頭に、万博協会、大阪府・市、国などが連携し、例えば以下のような種々の対策が講じられています。

  • 感染症対策に関する教育
  • 観光業や万博従事者へのワクチン接種に関する啓発
  • 輸入感染症への検疫の強化
  • 万博従事者などでの感染症発生時の対応訓練、関係機関間の感染症情報共有ネットワーク作りや住民への情報発信のための「大阪・関西万博感染症情報解析センター」の設置(大阪府・市)
  • 感染リスクのある会場内エリアへの消毒設備の設置
  • 新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスの抗原定性検査キットの会場内配備

最後に

国や万博会場レベルでの感染対策についてお話をしましたが、私たち一人一人はどのように気を付ければよいのでしょうか?答えは、従来の感染対策を心がけることです。つまり、日頃から健康や体力作りに留意するとともに、感染症の流行状況にもアンテナを張っておくことや必要なワクチン接種を検討すること、そして手指衛生やうがい、必要に応じたマスク着用などの日常的な感染症対策を行うことです。感染症対策も心がけながら、万博を楽しみましょう!


主な参考文献:
1)国立健康危機管理研究機構.マスギャザリングイベント(東京2020大会)と感染症対策.IASR.43,2022,153. https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/iasr-topic/11330-509t.html :参照2025.3.27
2)国立健康危機管理研究機構.2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に向けての感染症リスク評価(2024年1月9日). https://id-info.jihs.go.jp/relevant/massgathering/020/12450-expo2025ra.html :参照2025.3.27
3)内閣官房国際博覧会推進本部事務局とりまとめ.2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)におけるセキュリティ・安全安心の確保に向けた取組要綱(2024年4月5日). https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/expo_suisin_honbu/pdf/apver5_youmouhonbun.pdf:参照2025.3.27 
4)公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会. 2025 年日本国際博覧会における会場衛生実施計画(2024年9月). https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/uploads/eisei_jissikeikaku.pdf:参照2025.3.27

公開日:2025年3月27日


筆者プロフィール

山中 巌

薬剤師、薬学修士。サラヤ株式会社 管理薬剤師

経歴
1981年 大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学)卒業
1983年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程前期修了
製薬会社にて製剤研究などに従事。定年退職後、調剤薬局勤務を経て、現在に至る。