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第17回:日光浴とビタミンD

先日、義理の母が介護施設に入所しました。
当の本人は足元が不安定であることもあり、外出せずに済む、むしろ日焼けしないと喜んでいるようですが、仕事柄、日光を浴びないことでビタミンD不足による骨折のリスク増加 が思い浮かびました。もう八十路、食も細くなってきているので、食事からのビタミンD摂取はままならないでしょうし、とりあえず骨の検査をするよう促しましたが、ちゃんと検査を受けているか心配です。
そんなことで、今回は、日向浴の主な効果についてご紹介します。


日光浴の効果

メリット1-4)

  • ビタミンDを体内で作り出し、骨粗しょう症を予防する
  • 体内時計のリセット、睡眠障害の改善
  • 体を温め、幸福感を与える効果

デメリット(紫外線によるもの)5)

  • 日焼け、シミ、しわ、皮膚がん(日本人は白人に比べて、発生率がかなり低い6)
  • 白内障発症の一要因
  • 免疫機能低下(急激に多く紫外線を浴びた場合7)

日向浴には、さまざまなメリットがあります。
その中で、高齢者にとって重要なメリットの一つとして挙げられるのが、ビタミンDの体内合成と骨粗鬆症(骨強度の低下により、骨折しやすい状態。高齢女性に多い。)の予防です。ビタミンDは、食品(キノコや魚類など)から摂取することができますが、日光に含まれる紫外線を浴びることによって、人の皮ふに含まれているコレステロール類似の物質から作り出すことができるビタミンです。カルシウムの吸収作用などがあり、骨粗しょう症の予防に重要な働きをしています。ただし、過剰になると高カルシウム血症や組織の石灰化などの副作用が生じます。ビタミンDは、脂溶性(油になじみやすい)で体内に蓄積しやすいため、特にサプリメントを利用される場合は、医師や薬剤師等のアドバイスを受けながら摂取した方が良いでしょう。

1日に必要なビタミンDの目安量と日光浴

厚生労働省が示す、日本人の食事摂取基準(2020年版)で、ビタミンDの食事摂取基準(18歳以上男女の目安量)は、1日8.5μgと示されていますが、特に高齢者は、適切に日光を浴びることによって、食事のみでは不足するビタミンDを得るよう推奨しています8)
それでは、日光浴から得るべきビタミンD量と、その量を得るために必要な日光浴の時間はどのくらいなのでしょうか。文献を参考に、高齢者が日向浴によって得るべき1日当たりのビタミンD量を10μgとし9-11)、ビタミンD を10μgを得るために必要と推定される日光浴の時間(平年値)を見てみましょう12)。日光浴によって作られるビタミンD量は、日光の強さや日光を浴びる時間、浴びる皮ふ面積に比例します。そのため、日光浴の条件を以下のとおりとします。

  • 晴天の日の一番効率良く日光を浴びることができる、正午頃
  • 日光を浴びる部位は、顔および両手(長袖着用)

この場合の日光浴の時間は、7月であれば、沖縄で7分、筑波で9~13分、札幌で10~12分と地域で大きな差異はなく、おおよそ10分程度です。一方、12月は地域によって大きく異なり、沖縄では25~30分ですが、大阪や筑波で50~60分、札幌にいたっては150~220分となっています。ガラス越しの屋内では、ビタミンDを作る作用の強いUV-Bという種類の紫外線が入らないため、北海道のような高緯度の地域では、冬場に2時間を超えて屋外で日光を浴びることが必要になりますが、それは現実的ではなく、食事によるビタミンDの摂取が、より重要であると考えられます。なお、日光を浴びすぎると、日焼けやシミなどの悪影響が生じます。日焼けし始める時間は、ビタミンDを作るために必要な日光浴の時間の約2~3倍12)と見積もられていますので、この点もご留意ください。


最後に

日光浴とよく似た言葉に「日向ぼっこ」という言葉があります。広辞苑によると、「日光浴」は健康増進のために体を日光に当てることで、「日向ぼっこ」は日の当たる場所に出て暖まることだそうです。日向ぼっこの“ぼっこ”、その語源は広辞苑によると、今昔物語の一節「春の節になりて日うららかにて日向ぼこりもせむ」の「日向ぼこり」が変化して「日向ぼっこ」になったようです。また「日向ぼこり」の意味は、日向ぼっこに同じですが、原典には「日向誇り」と記載されているようです。平安時代、「誇り」が暖まる意味で用いられることもあったというのは面白いですね!
さて、寒さはもうしばらく続きますが、せめて晴天の暖かい日には日向ぼっこをして、身も心も暖まって健康を保ちましょう。

主な参考文献:
1) 厚生労働省:生活習慣病予防のための健康情報サイト 骨粗鬆症予防のための運動-骨に刺激が加わる運
動を:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-05-001.html(参照2023-12-21)
2)厚生労働省:生活習慣病予防のための健康情報サイト 快眠と生活習慣:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html(参照2023-12-21)
3)尾崎ら. 高齢者の睡眠覚醒リズム障害への援助. 日農医誌, 2006; 54,5,762.
4)WorlD health Organization “RaDiation:The know health effects of ultraviolet raDiation”,
https://www.who.int/news-room/questions-anD-answers/item/raDiation-the-known-health-effects-of-ultraviolet-raDiation(参照2023-12-21)
5)環境省:環境保健に関する調査・研究 紫外線環境保健マニュアル2020:https://www.env.go.jp/chemi/uv/uv_pDf/02.pDf(参照2023-12-21)
6)Hori M,MatsuDa T,Shibata A,KatanoDa K,Sobue T,Nishimoto H.“ Cancer inciDence anD inciDence rates in  Japan in 2009:a stuDy of 32 population-baseD cancer registries for the Monitoring of Cancer InciDence in Japan(MCIJ) project”, Jpn J Clin Oncol,45,884-891.2015.
7)東邦大学:プレスリリース 発行No.582 平成27年3月5日:https://www.toho-u.ac.jp/press/2014_inDex/582.html(参照2023-12-21)
8)厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告 Ⅱ各論 ビタミン(脂溶性ビタミン): https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html(参照2023-12-21)
9)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版,:ライフサイエンス出版, 2015.
10)National Institutes of Health. “Dietary Reference Intakes (DRIs): RecommenDeD Dietary Allowances anD
ADequate Intakes, Vitamins”,
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK56068/table/summarytables.t2/?report=objectonly(参照2023-12-21)
11)Tajima R, Sasaki S. “Estimation of habitual nutrient intakes in Japanese aDults baseD on 16-Day Dietary recorDs: reference Data for the comparison”, 栄養学雑誌, 2019.
12)国立環境研究所 地球環境研究センター:ビタミンD生成・紅斑紫外線照射時間 (気候値):https://Db.cger.nies.go.jp/Dataset/uv_vitaminD/ja/climatology.html(参照2023-12-21)

公開日:2024年3月14日


筆者プロフィール

山中 巌

薬剤師、薬学修士。サラヤ株式会社 管理薬剤師

経歴
1981年 大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学)卒業
1983年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程前期修了
製薬会社にて製剤研究などに従事。定年退職後、調剤薬局勤務を経て、現在に至る。