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第14回:今夏の感染症 注意すべきは?

例年、夏の感染症といえば、夏風邪、食中毒が話題に挙がりますが、今夏はどうでしょうか?
夏風邪に代表されるヘルパンギーナやRSウイルス感染症の患者が、春先から例年より多く発生しています。
今夏は新型コロナウイルス感染症やインフルエンザにも注意が必要ですが、従来から流行している感染症についても忘れずに留意する必要があります。


子供に多い感染症

ヘルパンギーナ 2)

乳幼児に多くみられる夏風邪の代表的なウイルス性感染症です。例年6月から流行し始め、初夏に向けてピークを迎えますが、今年は春先から患者数が増加し始め、6月中旬の時点で過去5年間の患者数と比較しても、かなり多く、注意が必要です1)。手足口病と同じくエンテロウイルスの仲間で、数種の型のコクサッキ―ウイルスにより発症し、突然の高熱とともに喉に水疱ができ、喉が痛むなどの症状が出ます。
咳やくしゃみなどの際に出る飛沫による「飛沫感染」、病原体がヒトやモノを介して伝播することで感染する「接触感染」が主な感染経路です。
エンテロウイルスはノンエンベロープウイルス(脂質の膜に覆われていないウイルス)のため、通常のアルコール消毒剤に抵抗性(消毒剤が効きにくい)を示します。石けんと流水による手洗い、手指消毒、うがい等の徹底が予防法となります。治療は対症療法(症状を和らげる治療)のみとなり、解熱鎮痛剤などで症状を緩和するなどしながら、免疫の力で自然に治癒することになります。なお、同じエンテロウイルスが原因の手足口病も夏に流行期を迎えます。

咽頭結膜熱(プール熱)3)

アデノウイルスが原因で、小児を中心に、発熱、喉の痛み、結膜炎等の症状が3~5日程度続く感染症です。主に6月末から夏にかけて流行しますが、今年は6月中旬時点で昨年より多くの患者数の報告があり、2019年以前(新型コロナウイルス感染症流行前)の流行状況に戻った様子です1)。感染経路は飛沫感染や接触感染ですが、夏はウイルスに汚染されたプールの水から結膜に感染し、流行します。アデノウイルスもノンエンベロープウイルスです。石けんと流水による手洗い、手指消毒、うがいを行い、プール前後はシャワーをよく浴び、他人とのハンカチ、タオルの貸し借りは避けましょう。治療は対症療法が中心です。

RSウイルス感染症 4、5)

RSウイルスによる呼吸器の感染症です。生後数週間から数か月の乳児でもっとも重い症状を引き起こします。生後1歳までに半数以上、2歳までにほぼ100%の乳幼児が感染し、生涯にわたり何度も感染します。近年では、夏場から流行が始まるようになってきています。今年は6月中旬の時点で、過去5年間と比較してやや多い患者数です1)
発症すると通常、発熱や鼻水などが数日続きます。多くは軽症で済みますが、「ゼーゼー、ヒューヒュー」という喘鳴をともなった呼吸困難が起こる場合は気管支炎、肺炎へと進展していきます。感染経路は飛沫感染や接触感染です。特に医療機関や福祉施設では、小児から大量に排泄されるウイルスによる従事者や免疫が落ちている高齢者の感染に注意が必要です。予防は手洗い、手指消毒、マスク着用の徹底です。治療は基本的に対症療法ですが、重症化した場合は酸素投与や輸液点滴、呼吸管理などが行われます。

高齢者が夏に注意すべき感染症

腸管出血性大腸菌感染症(O157など)6、7)

大腸菌は動物や人の腸にいますが、そのほとんどは無害です。しかし、一部の大腸菌はO157のように毒素を産生し、これが重篤な症状を引き起こします。食後3~8日で激しい腹痛、下痢、下血が起こります。特に抵抗力の低い子供や高齢者が感染すると、赤血球がつぶれて貧血になったり、腎臓の働きが低下する溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症(けいれんや意識障害)などを併発するなど、重症化しやすいため注意が必要です。
今年は、6月までの時点でほぼ例年並みの流行状況8ですが、多発する初夏から初秋にかけては特に注意が必要です。
この菌で汚染された食品、例えば、加熱不足の肉、殺菌されていない井戸水、生野菜を飲食することで感染します。
食中毒予防の三原則「つけない」、「増やさない」、「やっつける」に基づき、衛生的な食材の取り扱いと十分な加熱調理、手洗い・手指や器具の消毒を徹底することで感染を予防することができます。

レジオネラ症 9、10)

レジオネラ菌に感染すると、レジオネラ肺炎やポンティアック熱を発症します。レジオネラ肺炎は重症化しやすく、免疫が低下している高齢者などで感染しやすいのが特徴です。
今年は6月中旬の時点で、すでに累積で約800件の報告があります。また高齢者が多いためか肺炎型が多くを占めています1)。例年、初夏から秋にかけて患者が増えていきます。レジオネラ菌は、特に水に生息するアメーバに寄生しています。水質管理を怠っている温泉や入浴施設は要注意です。詳細は過去の記事をご覧ください。

最後に

健康のためには、適度な運動やバランスの取れた食事、十分な睡眠が大切なのはもちろんですが、「笑い」も免疫力が強化される効果があるようです11)。笑顔で健康な楽しい毎日を過ごしましょう!



主な参考文献:
1)国立感染症研究所:IDWR感染症週報,通巻第25巻第24号:https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2023/idwr2023-24.pdf :2023年7月6日現在
2)国立感染症研究所:ヘルパンギーナとは:https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/515-herpangina.html :2023年8月2日現在
3)国立感染症研究所:感染症情報 咽頭結膜熱とは:https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/323-pcf-intro.html :2023年7月6日現在
4)厚生労働省:RSウイルス感染症Q&A(令和5年7月一部改訂):https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/rs_qa.html :2023年7月20日現在
5)国立感染症研究所:感染症情報 RSウイルスとは:https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/317-rs-intro.html :2023年7月6日現在
6)厚生労働省:腸管出血性大腸菌Q&A:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177609.html:2023年7月20日現在
7)農林水産省:腸管出血性大腸菌(細菌)[Enterohemorrhagic Escherichia coli](O157,O111など):https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/f_encyclopedia/o157.html:2023年7月20日現在
8)国立感染症研究所:感染症情報 IASR速報グラフ 細菌腸管出血性大腸菌:https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data30j.pdf:2023年7月6日現在
9)国立感染症研究所:感染症情報 レジオネラ症とは:https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/530-legionella.html?_fsi=wDktVR9m:2023年7月6日現在
10)厚生労働省:感染症情報 レジオネラ症Q&A:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00393.html?_fsi=wDktVR9m&_fsi=wDktVR9m:2023年7月6日現在
11)公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット:笑いの健康効果:https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/warai-kenko/waraitokenko.html:2023年7月6日現在

筆者プロフィール

山中 巌

薬剤師、薬学修士。サラヤ株式会社 管理薬剤師

経歴
1981年 大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学)卒業
1983年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程前期修了
製薬会社にて製剤研究などに従事。定年退職後、調剤薬局勤務を経て、現在に至る。