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お悩みスッキリコラム

第20回:災害と感染症は、関係する?

今年は能登半島地震に続き、8月には南海トラフ地震臨時情報が初めて出されました。気象庁は南海トラフ地震が、この30年以内に起こる確率は70%~80%との予測を出し注意を促しています。また、近年、地球温暖化の影響なのか、大型台風や洪水などの災害も頻発しているように思います。
このような状況を受けて、福祉施設や家庭などでは災害への備えをされていると思いますが、災害時の感染症対策 という観点での備えを考えられたことはありますか?


災害と感染症は、関係する? 1、2)

大規模な自然災害(地震、津波、火山噴火、台風、洪水等)では、住居の損壊や上下水道の寸断による衛生状態の悪化や、避難所などで狭い空間に密集して生活することにより、感染症リスクが高まります。また、被災者の栄養状態の悪化、睡眠不足やストレスなどが生じて、免疫力が低下し、感染症のリスクを高める可能性も考えられています。

災害によって起こる感染症の特徴 3、4)

一般的に、災害が発生してからの時間の経過により、予測される感染症は異なってきます。
①急性期である災害発生後1週間以内に、外傷などを負うことに伴う破傷風やガス壊疽の発症、②災害発生後1~3週間の亜急性期には、劣悪な環境や避難場所などの密な環境での居住により感染症流行のリスクが高まります。季節や地域の流行状況によりますが、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザ、風邪、結核、麻疹などの呼吸器感染症、ノロウイルスや食中毒などによる消化器感染症、加えて衛生環境の悪化に伴う尿路系感染症を発症するケースもあります。また、土壌などが混じった水を誤飲するなどによる誤嚥性肺炎(レジオネラ症を含む)、ネズミなどの尿で汚染された水との接触によるレプトスピラ症などの報告例も少なくありません。③その他、土壌やがれき処理などを行う場合には、レジオネラ症やダニが媒介するツツガムシ病などに注意が必要です。

災害時の感染症への備え

平時における備え

災害時に起こりうる感染症の特徴とその対策についての理解を深め、情報源の確認や、感染予防対策のための衛生用品(ハンドソープや消毒薬、マスク、ウェットティッシュ、口腔衛生用品、使い捨て手袋、トイレ衛生用品、体温計など5、6))の備蓄などが重要です。

災害発生時の感染対策

避難所などで問題視されるインフルエンザや風邪などの呼吸器感染症や食中毒への対策は、平常時の対策の基本と同様です6、7)

呼吸器感染症の予防:手洗い、うがい、咳エチケット、三密を避ける、環境を衛生的に保つ
食中毒の予防:細菌をつけない、細菌を増やさない、細菌をやっつける

また、感染症の重症化や蔓延防止には、感染者の早期発見と早期対応が有効です。特に高齢者は、避難所で目立つことがなく、自身の症状を自発的に訴えることが少ないので、早期発見が難しい傾向にあります。家族や周囲がしっかり見守ってあげること、そして医療関係者にタイムリーにつなげていくことが重要です3)


最後に

災害により多大な被害を受け、さらにはその後の長く厳しい避難生活により、被災者の方は心に深い傷を負われます。また、それがもとでいわゆる災害関連死に至るケースもあり、「こころのケア」が重要視されています8)。災害事例の研究9、10)では、地域コミュニティとのつながりが被災者の生活復興感の改善に寄与し、心の健康を保つために重要であることが報告されています。こころのケアのキーワードは、現代社会で希薄になりつつある「絆」ではないでしょうか。

主な参考文献:
1)押谷仁、神下記太郎. 大規模災害において想定される保健医療福祉の課題-感染症の観点から-.保健医療科学.2013;62,4,364.
2)加來浩器.平成31年度アジア感染症対策プロジェクト基調講演 災害と感染症(於東京都庁),平成31年1月29日.
3)高橋孝.災害時高齢者医療対策 感染症への対応と感染対策,日本老年医学会雑誌.2011;48,498.
4)笠井雅子ら.災害と感染症,小児感染免疫.2013;25,4,501.
5)アドホック委員会.被災地における感染対策に関する検討委員会報告.大規模自然災害における感染制御マネージメントの手引き.2014年1月11日. http://www.kankyokansen.org/other/hisaiti_kansenseigyo.pdf :参照2024.10.08
6)辻直美.レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル.株式会社扶桑社, 2020.
7)大阪府:大阪府保健所情報.地震・風水買いによる健康危機から身を守ろう.2009年8月5日. https://www.pref.osaka.lg.jp/o100010/chikikansen/kenkoukikikanri/jishinfusuigai1.html#:~:text=%E5%9C%B0%E9%9C%87%E3%83%BB%E9%A2%A8%E6%B0%B4%E5%AE%B3%E3%81%AB%E3%82%88 :参照2024.10.08
8)内城喜貴. Science Portal レビュー.能登半島地震被害で高まる感染症や心の不調リスク 災害関連死の防止への学会や大学が情報提供.2024.01.11. https://scienceportal.jst.go.jp/explore/review/20240111_e01/index.html#:~:text=%E7%9F%B3%E5%B7%9D%E7%9C%8C%E8%83%BD%E7%99%BB%E5%8D%8A%E5%B3%B6%E3%81%A7 :参照2024.10.08
9)内閣府:被災者のこころのケア 都道府県対応ガイドライン.平成24年3月. https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/pdf/kokoro.pdf :参照2024.10.08
10)兵庫県:阪神・淡路大震災からの創造的復興「生活復興調査報告書(平成13年度、15年度、17年度)」等.2022年7月1日. http://web.pref.hyogo.jp/wd33/wd33_000000158.html :参照2024.10.08

公開日:2024年12月25日


筆者プロフィール

山中 巌

薬剤師、薬学修士。サラヤ株式会社 管理薬剤師

経歴
1981年 大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学)卒業
1983年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程前期修了
製薬会社にて製剤研究などに従事。定年退職後、調剤薬局勤務を経て、現在に至る。