第13回:消毒剤の誤飲、増えています!
今年2月に、大阪のホテルで塩素系消毒剤の誤飲事件の報道がありました。消費者庁のホームページによると、新型コロナウイルス感染症流行に伴い消毒剤を日常的に使用している状況下で、消毒剤の誤飲事故が増えているとして、注意喚起されています。1)
そこで今回は、誤飲の対象となりやすい主な消毒剤や誤飲による影響、予防対策などについてご紹介します。
身近な消毒剤とその特徴
身近な消毒剤として代表的なものは、アルコール手指消毒剤、器具や容器などの消毒・漂白に使用される次亜塩素酸ナトリウム消毒剤などがあります。いずれも特有のにおいがしますが、ほぼ無色に近い透明な液体のため、飲料水と間違える可能性があります。
消毒剤を誤飲するとどうなる?
1.アルコール消毒剤 2)3)
主な成分はアルコールと水ですが、その他微量の添加剤を含むものもあります。主成分であるアルコールは、お酒と同じ成分のエタノールが含まれている製品が多いです。ただ、お酒と同じ成分と言ってもエタノール濃度が80%のものでは、ウイスキーの2倍くらいの高濃度ですので、微量を口に含んだだけでも口がやけるように感じたり、成人で300mL、幼小児で7.5~37.5mLを30分以内に飲むと、急性アルコール中毒を起こすなど、危険な状態になります。
また添加剤として、殺菌剤(クロルヘキシジングルコン酸塩や塩化ベンザルコニウム)や保湿剤(グリセリン、脂肪酸エステルなど)、抗炎症剤(アラントイン)などを含んでいるものがあります。特に塩化ベンザルコニウムは、10%原液などの高濃度のものでは、粘膜への腐食性や経口による死亡例があります。アルコール系消毒剤の場合はその含有量が0.05~0.2%と薄いですが、それでも大量に飲めば、塩化ベンザルコニウムによる中毒を引き起こす可能性があります。
2. 次亜塩素酸ナトリウム消毒剤 2)
いわゆる漂白剤と同じ成分の次亜塩素酸ナトリウムが溶解した水溶液です。強いアルカリ性と酸化作用を示し、皮ふ・粘膜の腐食作用を持っています。誤飲すると、口から消化管の粘膜を腐食し、激しい痛み、灼熱感、食道狭窄(食道が狭くなり食物が通りにくくなる)、悪心(吐き気)、嘔吐、下痢、腹痛を生じる場合があります。誤飲した際の腐食作用は、量より、濃度の影響が大きいとされています。幼小児においては5%液を15~30mL摂取するだけで死に至る場合があります。
誤飲を起こしやすい年齢層は?
生活用品全般に関する誤飲事故の件数は、6才未満の年齢層が最も多く、続いて高齢者に多いようです。6才未満の子供は、身近なものを口に運んだり、周囲への関心が高まり大人のしぐさをまねたりするなどの行動特性が、高齢者は、老化に伴う身体機能や認知症により十分な注意が払えなくなったり、取り違えや思い込みが起こりやすくなったりすることなどが、その要因と考えられています。5)6)
誤飲の予防対策 7)8)9)
- 消毒剤を小分けする場合は、絶対に飲料用ペットボトルを使用しない。「飲料用のペットボトル=飲料水」のイメージは想像以上に強く、そのため消毒剤の表示があっても、表示内容が見落とされ、飲料水と思い込んでしまう傾向があります。
- 消毒剤の入った容器を冷蔵庫に入れない(飲料水と間違いやすい)。
- 認知症の方や子供の目の届く場所に置かない。
誤飲時の対応 8)9)
万が一誤飲した場合、専門の相談機関や医療機関に迅速に連絡し、応急処置や医療機関受診の要否を確認しましょう。ただし、意識がない、呼吸がおかしいなど重篤な症状がある時は、直ちに救急車の要請が必要です。
専門の相談機関
救急安心センター事業(#7119)
*総務省消防庁のWebページへ移動します。
多くの地域で24時間対応。電話番号が異なる地域があります。
子ども医療でんわ相談(#8000)
*厚生労働省のWebページへ移動します。
休日や夜間対応。電話番号が異なる地域があります。
化学物質(たばこ、家庭用品など)、医薬品、動植物の毒などによって起こる急性中毒について、実際に事故が発生している場合に限定し、情報提供しています。
日本毒性情報センター 中毒110番
*日本中毒センターのWebページに移動します。
まとめ
Withコロナの時代、以前に比べて消毒剤がより身近になった環境下で、誤飲のリスクが高まっています。
特に誤飲のリスクが高いと考えられる子供や高齢者がいる、介護施設、保育施設、ご家庭などでは、ご注意下さい。
ところで余談ですが、2020年、新型コロナウイルス感染症が流行し始めた頃、当時アメリカ大統領であったトランプ氏が、漂白剤など消毒剤の人体への注射はウイルスを打ち負かすのに役立つ可能性があると、驚きのコメントをしたため、米国では騒ぎになったようです。このように世の中が混乱している時は、特にフェイクニュース(誤った情報)が出回ります。注意したいものです。
主な参考文献:
1)消費者庁電子サイト「Vol.583消毒剤・除菌剤の取り扱いに留意しましょう。誤飲や目に入る事故が続いています!」,https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child/project_001/mail/20220228/(参照2023-04-27)
2)公益社社団法人 福岡県薬剤師会ポータルサイト 「消毒剤の中毒一覧表」,https://www.fpa.or.jp/johocenter/yakuji-main/shodokuyaku/shoudokuyakuchuudoku.html(参照2023-04-27)
3)厚生労働省 /職場の安全を応援する情報発信サイト/ 職場のあんぜんサイト, https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/64-17-5.html
4) 芦田ら「阪神7地区における誤飲・誤嚥事故の実態調査―平成16~18年の隠し消防局への救急要請―」,日摂食嚥下リハ会誌,14(2),pp123,2010
5)消費者庁電子サイト プレスリリース「子供による医薬品の誤飲事故に注意!」(平成26年12月19日), https://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_007/(参照2023-04-27)
6)消費者庁電子サイト 映像教材「家庭用品等による中毒事故を防ぐために」指導者用解説書, https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/information_005/(参照2023-04-27)
7)産業保安ポータルサイト さんぽのひろば「誤飲事故はなぜ起きたのか【注目の化学災害ニュース】,RISCAD CloseUP, https://riss.aist.go.jp/sanpo/riscadnews/2021/03/p7448/(参照2023-04-27)
8)消費者庁電子サイト 高齢者の誤飲・誤食事故に注意しましょう!(令和元年9月11日)公表資料 高齢者の誤飲・誤食事故に注意しましょう! ―医薬品の包装シート、義歯、洗剤や漂白剤の誤飲が目立ちますー, https://www.caa.go.jp/notice/entry/016426/(参照2023-04-27)
9)厚生労働省 第28回医薬品・医療機器等対策部会 平成28年3月11日 参考資料2 別添1, https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000116079.html(参照2023-04-27)