第19回:健診はめんどう?-腎臓にまつわる検査項目-
「健診」(現在病気にかかっているか、将来の発症リスクを調べる検査)や「検診」(特定の病気にかかっているかを調べる検査)を受けていますか?
例えば、生活習慣病の一つであるがんでは、早期発見・早期治療をすれば完治できる可能性が高くなるだけでなく、治療に要する費用や時間軽減につながる時代になっていますが、その鍵を握るのが、「健診」や「検診」の定期的な受診なのです1)。
さて、約10人に1人がかかっているとされ、患者数が増加傾向にある腎臓病2)、知らず知らずのうちに進行するため、健診による早期発見・治療が重要な病気です。今回は、腎臓の役割とその機能(健康状態)をチェックする健診項目についていくつかご説明します。
腎臓とは
腎臓は、握りこぶし大の臓器で、腰の上あたりに、左右それぞれ一つずつあります。体内の老廃物の排出、血圧調整、体液調整、血液や骨を作るホルモンを分泌する等の機能を持つ大切な臓器です。ここで腎臓が血液中の老廃物を尿として排出する仕組みについて説明します。腎臓には、糸球体と尿細管からなるネフロンという組織が左右合わせて約200万個あります。毛細血管の塊である糸球体にて、その毛細血管の壁がフィルターのように働き、血液中の老廃物(クレアチニン、尿素、尿酸など)を水分とともにろ過・排出し、1日あたり約1.5Lの尿を作り出します2)。
ここでご留意いただきたいのは、
- 腎臓は病気が生じても自覚しにくい
- 腎臓の機能は加齢とともに徐々に低下する
- 急性の場合を除き、一度、腎機能が悪くなると回復させることが難しいと言われている
- 生活習慣病は腎臓病の進行リスクを高める
という点です3)。
腎臓の機能低下が進み血液の浄化ができなくなると、生命を維持するためには、健康な人の腎臓を移植するか、透析(人工膜などを利用して老廃物を除去する療法)が必要となります。
腎臓の機能を調べる
血液や尿の検査で、調べることができます。
血液検査
腎臓病が進むと、貧血を起こすため、赤血球やヘモグロビンが減少し、老廃物であるクレアチニン(筋肉を動かすと発生する)や尿素(タンパク質の分解物)、カリウムの濃度などが上昇します。また、急性の腎炎を起こすと白血球が増加します。血液検査でこれからの項目を調べると、腎臓の状況を把握することができます3)。ここでは、「血液中のクレアチニン濃度」よりも精度よく腎機能を評価できる「eGFR」について説明します4)。(健診によっては実施されない場合があります)
- eGFR(推算糸球体ろ過量)4)
「血液中のクレアチニン濃度」と「年齢」、「性別」から計算式により求めることができる指標で、腎臓が老廃物をろ過するおおよその能力を示しています。基準値は60ml/分/1.73㎡以上。日本人の平均的な体格(身長170cm体重63kgのとき体表面積は1.73㎡)とした場合に1分間あたり何mlの血液をろ過するかを示していて、60ml以上あれば正常ということになります。60ml未満の場合は医療機関を受診するようにしましょう。
尿検査
腎臓で作られる尿の成分を調べることによって、腎機能の状態や他の病気の有無をチェックすることができます。以下に、健診で採用されている検査項目をいくつか挙げます。検査の結果、陽性が出ている場合は、病気が生じている可能性があるため、医療機関を受診するようにしましょう。
- 尿タンパク
腎機能の障害、起立性タンパク尿、尿路感染、糖尿病腎症などが生じた時には、正常量(極めて微量)よりも多くのタンパク質が尿中に混じることがあります。この検査では、特殊な試験紙を用いて、尿中に異常な量のタンパク質が混じっていないか調べることができます。なお、激しい運動、高熱を出した場合などでも検出されることがあります。
- 尿潜血
腎疾患、膀胱炎、尿管結石、泌尿器系のがんなどが生じ、出血すると、正常より多くの赤血球が尿中に混じるようになります。この検査では、特殊な試験紙を用いることによって、尿中に混じっている赤血球が、肉眼では観察できない程度であっても、異常な量が含まれていないかを調べることができます。
最後に
採尿時に指示される内容で、よく疑問に思われていることについて補足します。
- 起床直後の採尿
その理由は、運動などによる尿成分への影響を回避でき、かつ尿が濃縮された状態なので、最も安定した結果が得られるためです5,6) 。
- 初尿ではなく中間尿をとる
これは、初尿には細菌などが混じる可能性があり、これらの成分が検査結果に影響を与えることがあるためです2)。
- 採尿の前はビタミンCを多量に含むサプリや飲料水などを控える
ビタミンCをたくさん摂ると、尿中にビタミンCが排出されます。この尿中のビタミンが試験紙の感度を低下させ、例えば赤血球(潜血)や糖(尿糖)が混じっていても、見かけ上、陰性としてしまうためです5,6)。
主な参考文献:
1)政府オンライン「生活習慣病と早期発見のために がん検診&特定健診・特定保健指導の受診を!」.2023年10月25日.https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201402/1.html:参照2024.06.04
2)中尾俊之著.患者のための最新医学 腎臓病改定版.株式会社高橋書店,2018.
3)川村哲也,川畑奈緒著.自分で強化する!腎機能.株式会社洋泉社,2018.
4)和田高士監修.ちょっと気になるカラダの数値がみるみるよくなる本.株式会社学研プラス,2020.
5)一般社団法人日本腎臓学会:診療ガイドライン 第2章 検尿の原則:https://jsn.or.jp/guideline/kennyou/10.php:参照2024.06.04
6)小橋隆一郎著.最新版 検査結果なんでも早わかり事典.株式会社主婦の友社,2018.
公開日:2024年3月14日