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第12回:感染症の流行 今春は?

報道によると、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類が、2類相当からインフルエンザと同じ5類へ変更することが決定しました。日常の生活に向け、大きく前進したものと感じています。
それでは新型コロナウイルス感染症以外の感染症の発生動向はどうでしょうか?
文献1によると、新型コロナウイルス感染症が流行し始めた2020年と、新型コロナウイルス感染症流行前の数年間について患者数を比較したところ、インフルエンザウイルスやロタウイルスのように感染経路が飛沫感染や接触感染によるものでは、患者数が減少しており、新型コロナへの感染対策が功を奏している可能性があるとのことです。
インフルエンザウイルスやロタウイルスなどでの患者数の減少傾向は、2020年以降も続いていましたが2)、2022年末よりインフルエンザが流行していますので、感染症の動向に注意する必要があります。
そこで、例年春先に流行していた感染症とその予防法の概要についていくつか紹介します。



ウイルス

インフルエンザウイルス 3)



流行期 例年、年明けにピークを迎え4月上旬まで流行します。
潜伏期間 1~4日
感染経路 飛沫感染接触感染
予防方法 新型コロナウイルスとほぼ共通しており、手指衛生、咳エチケット、個人防護具の着用など日々の標準予防策を確実に実施します。
さらに「3つの密」の回避を求める新型コロナウイルス感染症の予防をすることで、インフルエンザ対策になると考えます。

インフルエンザウイルスに関する詳細はこちらをご覧ください。

ロタウイルス 4-10)



流行期 2月から5月にかけて、ノロウイルスより少し遅れて流行する傾向にあります。
潜伏期間 2~4日の潜伏期間
主な症状 主に乳幼児が急性の胃腸炎を引き起こし、激しい嘔吐、水様の下痢、加えて発熱や腹痛をともないますが、通常1~2週間で自然に治癒します。終生免疫(一度の感染で生涯、その感染症にはかからない)は得られませんが、感染を繰り返すたびに軽症化する傾向にあります。
感染経路 主な感染経路は感染者の糞を介して感染する糞口感染(接触感染)です。 
感染力はノロウイルスと同様に非常に強いです。
予防方法 ロタウイルスは、ノロウイルスと同様に脂質等の膜でおおわれていないノンエンベロープウイルスであるため、一般にアルコールや界面活性剤は効きにくいですが、最近開発された酸性のアルコール製剤は効果が期待できます。手指衛生は、石けんによる手洗いを基本に、酸性のアルコール製剤による消毒を併用するのも良いでしょう。 
環境表面は、塩素系消毒剤を使用して清拭しましょう。また、汚物処理の際は、空気中に舞い上がったウイルスを吸い込まないよう、マスクを装着しましょう。このウイルスに対するワクチンはありますが、治療薬はなく、症状を和らげる治療となります。

ロタウイルスに関する詳細はこちらをご覧ください。

水痘帯状疱疹ウイルス 11)

水痘帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる水痘は、いわゆる「みずぼうそう」のことで、発疹性の病気です。



潜伏期間 感染から2週間程度
主な症状 発疹の発現前から発熱が認められ、紅斑から始まり水疱、膿疱を経てかさぶたができ治癒します。
近年の統計では、国内では年間100万人程度が発症し、20名程度が死亡すると推計されています。水痘は9歳以下が90%を占めると言われています。成人が発症すると重症化リスクが高いと言われています。
また、水痘帯状疱疹ウイルスによる疾患として、帯状疱疹があります。水痘治癒後もウイルスが体内に潜伏し、加齢や免疫低下にともない帯状疱疹として発症する場合があります。
感染経路 空気感染飛沫感染接触感染
予防方法 ワクチンがあり、現在では定期接種が行われています。

水痘に関する詳細は厚生労働省の感染症情報 水痘Q&Aをご覧ください。

細菌

A群溶血性レンサ球菌 12-14)

A群溶血性レンサ球菌は、いわゆる上気道(鼻から鼻腔、鼻咽腔、咽頭、喉頭まで)の感染症(咽頭炎)を引き起こします。



流行期 年中、感染する恐れがありますが、特に冬と春から初夏がピークとなります。
潜伏期間 2~5日
主な症状 咽頭や扁桃に感染して、のどの腫れ、痛み、38℃以上の高熱などを起こします。
感染経路 飛沫感染接触感染
予防方法 感染者との濃厚接触を避け、うがい、手洗い、咳エチケットを行います。 
この菌は、熱や消毒薬に対して比較的弱いので、アルコールや塩素系の消毒薬はもちろんのこと、第四級アンモニウム塩、両性界面活性剤でも効果があります。 
治療は、抗菌剤で行われます。

A型溶血性レンサ球菌に関する詳細はこちらをご覧ください。

レジオネラ菌 15)

患者数は多くありませんが、時折ニュースになる病原菌で、肺炎を引き起こし、時に重症化することもあります。特に免疫機能が低い高齢者や乳幼児では注意が必要です。
春先、インフルエンザや花粉症の対策として加湿器を用い湿度を上げているところがあると思いますが、気化方式の熱を加えないタイプでは、レジオネラ菌がタンク内で繁殖し、この菌を吸入すると肺炎を発症することがあります。こまめな貯水タンクの清掃を心掛けて下さい。
肺炎を起こした場合は抗菌剤で治療します。ポンティアック熱の場合は、一過性のもので自然に治癒します。
レジオネラ菌に関する詳細はこちらをご覧ください。

おわりに

新型コロナウイルス感染症は、今後も新たな変異株が出現する可能性があります。では、変異にともない致死率などの病原性は低下していくのでしょうか?昨年、イギリスの総合科学雑誌ネイチャーに投稿された論文16)によると、ウイルスの変異は、必ずしも病原性の低下に繋がるとは言えないそうです。オミクロン株では病原性が低下していますが、今後も要注意です。

主な参考文献:
1)忽那賢志 YAHOO!ニュース「コロナ禍で減っている感染症と変わらない感染症 その要因を感染専門医が考察」2020.10.25,https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20201025-00204624(参照2023-02-09)
2)国立感染症研究所他 「IDWR通巻第24巻第51・52合併号」2023年1月16日発行, https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2022/idwr2022-51-52.pdf(参照2023-02-09)
3)厚生労働省他「インフルエンザ施設内感染予防の手引き」平成25年11月改定, http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/tebiki.pdf(参照2023-02-09)
4)国立感染症研究所他「病原微生物演出情報 ロタウイルス2004年9月~2019年8月」2019年12月発行, 40(12),201-3, https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/iasr/40/478.pdf(参照2023-02-09)
5)国立感染症究所「ロタウイルス感染性胃腸炎とは」2013年5月15日作成, https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/3377-rota-intro.html(参照2023-02-09)
6)厚生労働省「ロタウイルスに関するQ&A」第1版平成26年2月14日作成, https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/Rotavirus/dl/q_a.pdf(参照2023-02-09)
7)国立感染症研究所 「病原微生物検出情報 ロタウイルスの概要」2014年3月24日作成, https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2261-related-articles/relate(参照2023-02-09)
8)一般社団法人日本感染症学会オリンピック・パラオリンピックアドホック委員会「症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会に向けて~:ロタウイルス感染症」最終更新日2019年7月23日, http://www.kansensho.or.jp/ref/d76.html(参照2023-02-09)
9)神谷晃ら「環境に対する消毒剤の選び方:消毒剤の選び方と使用上の留意点」,改定2版,じほう,東京,2006,p.
59,85-8
10)サラヤ株式会社「知っておきたい!家庭の感染と予防 ロタウイルス感染症とは?」, https://family.saraya.com/kansen/rotavirus/ (参照2023-02-09)
11)厚生労働省「水痘 Q&A」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/varicella/index.html(参照2023-02-09)
12) 東京都感染症情報センター「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」更新日2018年11月22日, https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/group-a/(参照2023-02-09)
13) 国立感染症研究所 感染症情報センター「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは」,IDWR2003年第37号掲載, https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html(参照2023-02-09)
14) 大久保 憲ら編集「2020年版 消毒と滅菌のガイドライン」,へるす出版,東京,2020.
15) 厚生労働省 「レジオネラ症Q&A」, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00393.html(参照2023-02-09)
16)Aris Katxourakis,“COVID-19:endemic doesn‘t mean harmless”nature,Vol.601,485,27,January,2022, https://www.nature.com/articles/d41586-022-00155-x(参照2023-02-09)

筆者プロフィール

山中 巌

薬剤師、薬学修士。サラヤ株式会社 管理薬剤師

経歴
1981年 大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学)卒業
1983年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程前期修了
製薬会社にて製剤研究などに従事。定年退職後、調剤薬局勤務を経て、現在に至る。