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第8回:地域包括ケアシステムと介護職

先月に続き在宅関連の話題として「地域包括ケアシステム」を取り上げます。



地域包括ケアシステム」とは、地域高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス(介護、医療、予防、生活支援、住まい)を提供する体制をいい、国は体制構築の目標を2025年とし、これに向け自治体が中心となり、その体制作りを進めています。
それでは、なぜ、このようなシステムの構築が進められているのでしょうか?主な要因は高齢者が急激に増加し、施設を拡充する必要がありますが、財政面などで対応が難しくなっているからなのです。そのため、高齢者の回復期リハビリテーションなどの医療や介護福祉は、2010年代に施設から自宅、サービス付高齢者住宅、ケアハウスなどでの在宅ケアに大きく舵を切ったわけですが、今回は特に介護分野を中心に、現状について少し考えてみたいと思います。



介護職の不足

皆さんご存知のように、何といっても介護職の不足が一番の課題で、年々深刻度を増しています。少子化に伴う生産年齢人口の減少、要介護者の急激な増加に加えて、介護職の労働環境、処遇面の課題などにより、介護職不足が大きな問題になっています。介護ロボットや外国人の活用が話題に上がりますが、根本的な解決策にはならないようです。まずは、国や自治体は必要な財源を捻出し、しっかり処遇改善に努めてもらいたいものです。また、介護職不足を補うため、家族や地域住民の力を活用することが、このシステム構築の背景にあるようです。しかしながら、一人暮らしの高齢者や高齢者のみ世帯の割合が多くなって、家族による生活支援が難しくなっているため、地域住民の参画がより一層求められています。ある自治体で試みているような、定年退職前後の世代に対するボランティア参画へのアプローチは効果的だと思います。


介護に求められるもの

さて、これまでは介護の量的な面をお話してきましたが、在宅ケアを考えると、介護の質的なレベルの充実を図ることも必要だと思います。当方、調剤薬局勤務時代の在宅患者さんへの対応、介護職の方との会話、実母の介護の経験などから、介護においては、介助テクニックはもちろんですが、コミュニケーションによる信頼関係の構築が重要だと感じています。加えて、リハビリやお薬、緊急時の対応方法に関する知識も必要だと思います。

統計によると、誤嚥性肺炎が高齢者の死因の上位となっています。誤嚥性肺炎を予防するためには、食事介助のテクニックや口腔ケア、関連する衛生用品などの知識が必要です。さらには、高齢者は老化に伴い免疫機能が低下しているため、感染症予防のための正しく適切なタイミングでの手洗いや手指消毒、マスクやエプロン、手袋などの個人防護具などの知識も必要です。

おわりに

最後に、蛇足になりますが大雑把な精神論のお話をしたいと思います。
一般に、高齢化社会というとマイナスのイメージを持ちがちで、その悲観的な意識が社会に悪影響を及ぼしていると感じます。堺屋太一さんが著書で述べられているように、高齢化社会をむしろ楽観的にとらえる意識の転換が大事ではないでしょうか。例えば、日本の高齢者は経済的にも知識や経験の観点でも豊かであり、若く元気なのです。
(2017年、日本老年学会・日本老年医学会は、高齢者の定義を65才から75才以上に引き上げを提言しています)
このような高齢者の社会は、新たな文化や市場を創造できる可能性を秘めているとのことです。
当方も含め、高齢者(特に65-74才の前期高齢者)は、このことに目覚め、例えば現役でバリバリ仕事を続けることはもとより、人生経験豊富なボランティア、優良な消費者として活躍するなど、子や孫たちの世代のために積極的に貢献しましょう。現役世代の皆さん、人生の先輩であり経験豊かな高齢者に敬いの心を持ち、高齢者と一緒になって、高齢化社会という新たなフロンティアを開拓し、豊かな福祉社会を築きませんか。

主な参考文献:
・公益財団法人日本生命済生会「地域福祉研究」編集委員会監修,黒田研二編.地域包括支援体制のいま 保健・医療・福祉が進める地域づくり,ミネルヴァ書房,2020.
・結城康博.介護職がいなくなる,岩波書店,2019.
・山田俊郎.介護サービス実践マニュアル,幻冬舎,2017.
・堺屋太一.高齢化大好機,NTT出版,2003.

筆者プロフィール

山中 巌

薬剤師、薬学修士。サラヤ株式会社 管理薬剤師

経歴
1981年 大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学)卒業
1983年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程前期修了
製薬会社にて製剤研究などに従事。定年退職後、調剤薬局勤務を経て、現在に至る。