レジオネラ症
レジオネラ症で高齢者施設にて死亡事例が発生。清掃や消毒など感染予防対策の推進、徹底を!
※本コラムは、2020年8月に執筆されたものを一部編集したものです。
高齢者が利用する医療・介護施設などで、レジオネラ感染による死亡例は、2018年12月から2019年11月にかけて、筆者の知る範囲で以下の4件が、新聞等で報道されています。
2018年12月に大分県の高齢者施設で、入所者3人が集団感染し、うち1人が死亡。
2019年1月に北海道の介護保険施設で、入所者3人が集団感染し、うち1人が死亡。
2019年2月に兵庫県の医療施設で、入院中の70代の女性が、院内感染で死亡。
2019年11月に滋賀県に住む70代の男性が発症し、死亡。
上記大分県と北海道の場合は、部屋の中にあった加湿器から菌が検出され、兵庫県の場合は、利用した個室の蛇口の湯水から菌が検出されています。加湿器と蛇口が感染源と推定されています。
ここ数年、レジオネラ症の発症者は、年々増加しています。2019年の発症者は2,314人で、過去最多の発症者が出ています(表1)。
今季(2020年)も、7月19日の時点で発症者が887人で、発症者は、60代以上の高齢者が多く、全体の9割を男性が占めています(国立感染症研究所のIDWR;第29週、速報)。
ここ10年、レジオネラ症の発症者数と死者数は、下表に示すように年間発症者数が800人前後から2,000人前後に増え、うち死者数は60人前後となっています。
表1:レジオネラ症の国内発生
(国立感染症研究所のIDWR、厚生労働省の人口動態統計、*IDWR;第25週、速報より)
年 | 発症者数(人) | 死者数(人) |
2009 | 717 | 58 |
2010 | 751 | 43 |
2011 | 818 | 56 |
2012 | 899 | 58 |
2013 | 1,124 | 64 |
2014 | 1,248 | 65 |
2015 | 1,592 | 59 |
2016 | 1,602 | 67 |
2017 | 1,722 | 53 |
2018 | 2,130 | 53 |
2019 | 2,314 | 52 |
2020 | 625* | 未発表 |
厚生労働省は、2015年3月に「循環式浴槽におけるレジオネラ症予防対策」の改訂版を出しています。そして、2018年8月に「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」の一部改正(厚労省告示第297号)を行って、衛生管理の対象に加湿器を加え、入浴設備や空気調和設備の冷却塔、給湯設備、加湿器などの衛生管理の維持、徹底を求めています。また、2019年9月に「公衆浴場における衛生等管理要領等の改正について」(生食発0919第8号、令和元年9月19日)を出し、これらの改正を踏まえ、2019年12月に「循環式浴槽におけるレジオネラ症予防対策マニュアルについて」(平成13年9月11日付健衛発第95号)を改正しています。
厚生労働省は、上記通知やマニュアルを提示して、レジオネラ症の発生防止や、発症者の低減を目指しています。それにも関わらず、入浴施設や介護施設などでレジオネラ症の発症者や死者が出ており、近年は季節に関係なく発生しています。
60代以上の高齢者は、加齢で身体の免疫力が低下して、レジオネラ属菌に感染しやすく、発症すると症状が進行して重症化や死亡することがあり、注意する必要があります。
レジオネラ感染は、そのほとんどが入浴設備(シャワーを含む)や給湯・給水設備、配管、加湿器、利用水等の衛生管理(清掃や洗浄、換水、消毒、水質検査など)の不徹底によって発生しています。
今一度、レジオネラ属菌が入浴設備や給湯・給水設備、加湿器等の中で汚染や繁殖しないよう、自施設で行う衛生管理(清掃、洗浄、換水、消毒、水質検査など)の実施状況(衛生対策や検査の内容、作業方法・手順、評価基準、記録など)を点検し、問題点があれば、速やかに是正、改善して下さい。
厚生労働省の「レジオネラ対策のページ」で開示された事務連絡「施設の使用再開に伴うレジオネラ症への感染予防対策について(令和2年5月13日)」を参考にしながら、自施設でレジオネラ症の発症者が発生しないよう、上記感染予防対策を推進、徹底して下さい。
掲載:2020年8月
"加湿器"のレジオネラ汚染に注意、集団感染で死者が発生、日常的な衛生管理(清掃や洗浄、消毒など)の推進、徹底を!
※本コラムは、2018年3月に執筆されたものを一部編集したものです。
感染予防対策の一つとして、家庭や医療施設、福祉介護施設などで小型の"加湿器"が重用されています。
エアコンや電気ストーブを使用する部屋は、室内の空気が乾燥し、湿度も低くなって、喉の粘膜を傷めたり、ウイルスが活性化するなどして、インフルエンザに感染しやすくなっています。そこで、加湿器を使って、室内の温・湿度(温度;約25℃、湿度;50~60%)を維持して、インフルエンザの感染リスクを低くする対策が取られています。
ところが、昨年末から今年1月にかけて、大分県の高齢者施設で、利用者3人がレジオネラ属菌が原因の感染症「レジオネラ症」に感染し、うち1人(90代の男性)が死亡しています。施設の居室に置かれていた加湿器から菌が検出され、加湿器が集団感染の原因と推定されています。
加湿器は、現在4つのタイプ(超音波式、気化式、ハイブリッド式、スチーム式)が市販されています。上記集団感染が発生した施設では、超音波式の加湿器が使用されていました。
超音波式加湿器は、手入れが十分でないと、タンクの水に微生物(細菌やカビ類など)が混入(汚染)して生息(繁殖)します。加湿器のタンクやフィルター、トレーの掃除(洗浄、消毒など)を怠ったり、タンクの水を継ぎ足したりすると、水に含まれる微生物が、そのまま霧状になった水と共に、空気中に放出され、室内に拡散する恐れがあります。
レジオネラ感染を防ぐため、室内に設置した超音波式加湿器は、
- こまめに清掃(洗浄、消毒)する
- 置き場所に注意する
- タンクの水(水道水)は毎日交換する
- 使用しない時は、水を抜いて、乾かして保管する
- 使用中は、室内の湿度が60%を超えると、カビや微小昆虫(ダニなど)が繁殖しやすくなるので、加湿器のオンオフをこまめに行って、湿度が50~60%になるように調整する
などの対策が必要です。
加湿器を使用する部屋は、こまめに掃除をして、上記湿度管理や換気を行いながら、室内を出来るだけ清潔な状態に保つことは言うまでもありません。
大分県の高齢者施設におけるレジオネラ属菌の集団感染(死者の発生)を受け、厚生労働省は、超音波式加湿器の使用について、「レジオネラ症の原因となる可能性がある」と注意喚起しています。レジオネラ症は、今季も、国内各地で発症者が多発しています。国立感染症研究所の週報(IDWR;第7週、速報)を見ると、2月18日の時点で、発症者が142人で、前年の同時期(121人)より多い発症が出ています。
レジオネラ症の死者も出ており、感染死例が新聞等で報道されています。2月に千葉県で病院に入院していた男性会社員(56歳)が死亡しています。感染経路は特定されていないようです(2月15日;産経新聞)。
レジオネラ症は、ここ10年間を見ても、下表に示す発症者と死者が出ています。
表2:レジオネラ症による発症者と死者(2008~2017年)
(国立感染症研究所のIDWR、厚生労働省の人口動態統計より)
年 | 発症者数(人) | 死者数(人) |
2008 | 893 | 46 |
2009 | 717 | 58 |
2010 | 751 | 43 |
2011 | 818 | 56 |
2012 | 899 | 58 |
2013 | 1,124 | 64 |
2014 | 1,248 | 65 |
2015 | 1,592 | 59 |
2016 | 1,602 | 67 |
2017 | 1,722 | 未発表 |
上表を見る限り、ここ数年、レジオネラ症の発症者と死者は、年間発症者が1,600人前後で推移し、うち60人前後の死者が出ています。国と地方自治体によるレジオネラ症対策が推進されていますが、発症者と死者の数が一向に減少せず、逆に増える傾向が見受けられます。
レジオネラ感染は、温泉や旅館、公衆浴場(銭湯)、遊泳場(プールなど)で散発していますが、高齢者が利用する福祉介護施設でも発生しています。
高齢者は、体調を崩しやすく、レジオネラ属菌にも感染しやすくなっています。高齢者は感染すると、発症後、重度の肺炎になって死亡する恐れがあり、注意する必要があります。
レジオネラ感染は、入浴施設の浴槽や配管、水等の衛生管理や、施設内外の環境衛生管理の不徹底によって発生しています。今一度、自施設における前記衛生管理や環境衛生管理の実施状況(衛生対策の内容、作業方法・手順、評価基準など)を点検し、問題点が見つかれば、速やかに是正(改善)して下さい。
高齢者が利用する福祉介護施設や医療施設などで、レジオネラ感染が発生しないよう、厚労省告示第264号「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」(平成15年7月25日)などを参考にしながら、上記感染予防対策を推進、徹底して下さい。
掲載:2018年3月